唯一無二のユニークな古代コイン

2020/9/8|著者: アンティークコインタイムズ編集部

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マイク・マーコウィッツ(Mike Markowitz)による −2020年8月7日
マイク・マーコウィッツによるコインウィーク(CoinWeek)の古代コインシリーズ…

 

「これは非常に珍しいコインです; 2つのコインのみが知られています!残念ながら、世界中で唯一そのコインを気にかける人だけが、もう1つを持っています」

−昔からあるコインジョーク(ソースは不明)

 

「ユニーク」とは、唯一無二という意味です。究極の希少性。最も希少なものであれば何でも。

 

しかしながら、この呼称はとても脆いものです;別の真正のコインが現れる可能性が常にあるからです。そのため、貨幣専門家は「明らかにユニーク」「未発表」「歴史的に重要」といった表現を好みます。しかし、ラテン語のユニカム(unicum)(またはドイツ語綴りの「unikum」)がカタログリストに掲載されると、一流の貨幣専門家の心臓はドキドキするものです。

 

古代コインの価値は、3つの要素で決まります:歴史的な面白さ、見た目の良さ、そして希少性です。アレクサンダー大王やクレオパトラのユニークなコインは、どんなにボロボロなものでも「とても重要」なものとなるでしょう(「とても重要」というのは「とても高価」の遠回しな言い方です)。しかし専門家の間だけで知られているような名も無い君主の地方で使われていた銅コインであれば、歴史的な面白みは少なく、おそらく控えめな値札が付いているはずです。

 

この記事では、様々な時代と場所のユニークな古代コインについて、簡単に説明します。



アイトナ・テトラドラクマ(Aitna Tetradrachm)

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シチリア、アイトナ(カターニャ)、テトラドラクマ銀貨、 紀元前465年、表側:ひげをはやした右向きのシーレーノス、「AITNA ION(アイトナの人々の)」の文字、下部にカブトムシ。裏側:玉座に座るゼウス神、落雷を握っている、右向き、マツ科の木に留まる鷲、17.23グラム26 mm、ベルギー国立図書館、ブリュッセル。

 

アイトナ(Aitna:現在のシチリア島、カターニャ(Catania))で紀元前465〜460年頃に造幣されたユニークなテトラドラクマ銀貨は、「コインの中のコイン」[1]と言われています。ブリュッセルベルギー国立図書館コレクションの中にあります。ハーラン・バーク(Harlan Berk)の100の偉大な古代コインリストに第22位のコインとして載っています。

 

バークは次のように書いています:

 

このコインは、ギリシャ美術の厳格なスタイルを表現した最も良いコインのうちの1つで、より硬いアルカイック(Archaic)スタイルと、より自然主義的なクラシック(Classical)スタイルとの間の移行を表しています。並外れて高い浮き彫りが施されており、ディテールは素晴らしく、そして構図はオリジナルです。ギリシャコインの中で随一の功績です。(バーク、25)

 

表側は、ワインの神ディオニュソス(Dionysus)の友人であるサテュロス・シーレーノス(satyr Silenus)のひげを生やした頭が描かれています。エトナ山周辺の豊かな火山性土壌は今でも素晴らしいワインを作り出しています。小さなカブトムシがサテュロスの首の下に描かれており、非常に正確に描写されているため、昆虫学者はそれがトレクテス・マルギナトゥス(Thorectes marginatus)[2]であると識別しました。

 

裏側には、ゼウス神(god Zeus)が王座に座り、彼の代名詞である落雷を握っている様子が描かれています。彼の前には鷲が木の上に留まっており、おそらくその木はシチリアの壮大な植物であり絶滅危惧種であるネブロディ・モミ(Nebrodi fir)[3]だと考えられます。

 

アイトナのテトラドラクマ銀貨の匿名の主幹彫刻家は、現状で61個のコインが知られるナクソス(Naxos:現在のシチリア島、タオルミーナ(Taormina))の見事なテトラドラクマコインの製作者でもあり、そのコインはバークのリストの第4位に輝いています。



アレクサンダー・ゴールド・ダブル・ダリック(Alexander Gold Double Daric)

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マケドン(Macedon)のアレクサンダー3世、ダブル・ダリック、インドでアレクサンダー大帝の軍隊と共に移動する造幣所、紀元前326年以降、16.75 グラム、19 mm。ミルザカーII(Mir Zakah II)の宝庫、アフガニスタンのプライベートコレクションより。

 

1947年に、紀元前4世紀から2世紀までの期間のものとされる推定550,000枚ものコインが入った巨大な貯蔵庫が、カブールの南東役88km(54マイル)にあるアフガニスタンのミルザカ村(Mir Zakah)の泥だらけの池から発見されました。

 

コインのほとんどはアフガニスタンとパキスタンのバザールで徐々に分散されていきました。1992年から93年にかけて、アフガニスタンは崩壊して内戦に発展し、地元の将軍が、コインが発見された場所を再び発掘したことで大量のコインが発見されました。その中には、スリランカの著名な歴史家であり貨幣専門家であるオスムンド・ボエパラッチ(Osmund Bopearachchi)[4]によって最初に発行された、アレキサンダー大帝のゴールド・ダブル・ダリックが含まれていました。

 

このコインは物議を醸しています。;コインの起源と信憑性については長い間議論されてきました[5]。

 

表側には、髭のない男性の頭の高い浮き彫りが施されており、アレキサンダー大帝は「インドの征服者」を象徴する奇妙な「象の頭皮」の頭飾りを着用しています。裏側はインド象が描かれており、上にはギリシャ文字の「Xi (“Ξ”)」が書かれています。この文字の意味は不明で、下には「BA」の文字で構成されるモノグラムが書かれています(バジレウス(Basileus)の標準的な略語で、「王」を意味します)。重量は16.75グラムで、金属は97.7%が金、1.8%が銀、0.4%が銅であり、微量のプラチナとパラジウムが含まれています。(ホルト、47)

 

このコインはパキスタン人のコレクターが所有しており、2005年にフランスの美術館で展示されました。



アラス・ゴールド・メダリオン(Arras Gold Medallion)

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10ソリディ(Solidi)のメダリオン、トリーア造幣局、紀元前296年のコンスタンティヌス1世によるブリタニア征服を祝うために発行された。オリジナルはパリのルーブル、エレクトロタイプコピーは大英博物館に保存。「FL VAL CONSTANTIUS NOBIL CAES」の文字、月桂冠、コンスタンティヌス1世を代表するドレープ付きの胸、翼状突起保護皮のショルダーストラップ)のついた胸甲の肩(表側)。「REDDITOR LVCIS AETERNA」の文字、ロンドン、腕を伸ばして嘆願する左向きのひざまづく女性(LONのラベル)、街の門に向かって右向きに乗る皇帝、下には4人を乗せた船(裏側)。

 

1922年9月22日、フランス北部のアラス(Arras)郊外のボーラン(Beaurains)の近くを掘っていた労働者達は、315年に埋められた金と銀の素晴らしい宝物を発見しました[6]。

 

これらの宝物の中には、10アウレウス(52.88グラム)のコンスタンティヌス1世のユニークな金貨が含まれていました。コンスタンティヌス1世は、293年から305年にかけてのマクシミアヌスとの共同皇帝であり、コンスタンティヌス大帝の父親です。このコインは、296年のイギリスの盗賊アレクトス(Allectus)への勝利を記念したものです。ゲルマニアトリーア(Trier)の造幣局で作られたこのメダリオンは、上級軍司令官に贈られたものだと考えられます。

 

表側は、勝者を意味する月桂樹の冠を付け、鎧を着た厳格な表情のコンスタンティヌスの肖像画が描かれています。ラテン語の文字「FL VAL CONSTANTIUS NOBIL CAES」は「フラウィウス・ウァレリウス・コンスタンティヌス、最も高貴なシーザー」と翻訳されます。「シーザー」というのはこの時代の共同皇帝に与えられた称号で、当時は東と西の皇帝で権力が別れ、それぞれに副帝も置かれた複雑な「テトラルキア(Tetrarchy)」という統治体制が敷かれていました。

 

裏側は、ロンディニウム(現在のロンドン)の街を代表するひざまずく女性が、街の門で馬の背に乗るコンスタンティヌスを歓迎する様子が描かれています。同時に、軍隊を乗せた船がテムズ川を上る様子も描かれています。コインに書かれた「REDDITOR LUCIS AETERNA」という文字は、征服した者を「永遠の光の回復者」として祝う言葉です。このコインのオリジナルはアラスの博物館にあり、1927年に作成された忠実に再現されたエレクトロタイプのレプリカは、現在展示はされていませんが大英博物館[7]に保存されています。



アビドス・ステーター(Abydos Stater)

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アビドス(Abydos)、ゴールド・ステーター、紀元前330年頃。8.60g。アカンサスの葉で飾られた円筒状の飾りを着けている正面向きのアルテミスの頭。/左向きで立つ鷲;左側には2枚の葉とブドウの房のついた蔓。

 

傑出した100万ドルのユニークなコインは、紀元前330年頃に発行されたアビドス(Abydos)[8]のゴールド・ステーターです。現代におけるトルコチャナッカレ(Çanakkale)近くにあるアビドスは、ヨーロッパ小アジアから隔てる海峡の一つであるヘレスポント(Hellespont)の狭い交差点に位置していました。アレキサンダー大帝は、紀元前330年頃にアビドスに造幣所を作り、いくつかの注目に値するゴールド・ステーターを発行しました。

 

コインの表側には、狩猟の女神であるアルテミス(Artemis)の美しい顔と、野生動物や月が描かれています。アルテミスは葉っぱが巻かれた円筒状の飾りを頭に着けています。裏側には、鷲がブドウの葉と房のついた蔓の横に立っている様子が描かれています。

 

文字やモノグラムがなく、このコインはエレガントで謎めいています。

 

2010年のスイスオークションでは、100万ドル以上の値段で落札されました[9]。



ユーノス(Eunos)

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シチリア、ユーノス、西暦紀元前135-132、8.58 g。表:王冠を付けた右向きのユーノス・アンティオコスの頭。裏:「ΦΙΛΙΠΠΟΣ」の文字、武器の山の左側に座り、左に杖、右の太腿に剣を持つ人物。H.J.バーク – S.ベンダル, Eunus / Antiochus: Slave Revolt in Sicily, Celator 8 Issue 2, 1994, 6ffで公開された情報。ユニーク!

 

紀元前135年に、ローマのシチリア州の奴隷が反乱を起こしました。「Antiochus」という名を名乗り自らを王であると宣言したユーノス(Eunos)というシリアの奴隷が率いる反乱軍は、エンナ(Enna)の街を占領し、彼ら自身のコインを発行しました。ローマ軍が洞窟でユーノスを捕らえるまで3年間にわたり「第一次奴隷戦争(the First Servile War)[10]」は続きました。ユーノスは処刑される前に病気で亡くなりました。

 

ユーノスの肖像が描かれたユニークなゴールド・ステーターは、2012年のドイツのオークションに出品されました[11]。裏面にはギリシャ語で「Philippos」と書かれており、捕獲した武器の山に座っている人物が描かれています。ローマ共和国で流通していた最も一般的な金貨は、マケドン(Macedon)のフィリップ2世(紀元前359-336年に統治)のステーターであったため、フィリップス(Philippus)はラテン語であらゆる金貨の総称となりました。



レオ2世ナムス(Leo II Nummus)

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レオ2世、474年、 ナムス (ブロンズ, 11.5 mm, 0.99 g、6 h)、コンスタンティノープル。「[D N] LEO-[PE]RPEP AVG」王冠とドレープを付けた右側のレオの胸像。裏側:「SE – CN」、左向きに進み、右を向く勝利、花輪と捕虜を持っている;全て月桂樹のリース内。表側は明らかにカエサルではなくアウグストゥスとしてのレオの名前であることは不明。裏側については、RIC X, p. 312, 949 (Zeno, second reign)を参照。未発表らしく、ユニーク。歴史的に非常に興味深い。かなり明確な文字と汚く銅色の緑青。ベリーファイン。

 

ユニークなコインは大きな歴史的関心を引くものとして、華々しく高価な貴金属の傑作である必要はありません。474年にコンスタンティノープルで一時的に名目上「君臨」した少年皇帝レオ2世(476年生まれ)の、小さく(1グラム)、すり減って汚れた銅のナムスについて、見てみましょう。彼の母アリアドネ(Ariadne)は、皇帝レオ1世(457-474に統治)の娘でした。彼の父親ゼノ(Zeno)は、帝国軍の指揮者でした。474年1月18日にレオ1世が亡くなった時、レオ1世の孫である若いレオ2世が唯一の皇帝となりました。彼は若すぎて公式文書に署名することができなかったため、上院は2月9日に不人気なレオ2世の父親を共同皇帝としました。レオ2世は7歳で亡くなり、ゼノに帝位を任せました。

 

ナムス(nummus)は、その時代で最も小さいコインでした:1つの金の固相線と同等にするには、7,200袋が必要でした。このユニークなコインには、表側に子供の肖像が、裏側に勝利の図が描かれています。

 

カタログの作成者はこう書いています:

 

これは、戴冠式で一般の人々に投げられることが目的のコインであったことは理にかなっています。(より重要なゲストには、金のソリディ(Solidi)が投げられたでしょう)[12]



ルディカ・ペニー(Ludica Penny)

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メルシアの王、ユニークかつ重要なメルシアのルディカ王のペニー、ロンドンに保存。:ルディカ(826-7)、ペニー、ロンドン、貨幣作成者の名前無し、王冠を被り右向き、「+ lvdica rex mer」の文字。裏側は一面に3列で書かれた「+ lvn donia civit」の文字、1.22g/12h (EMC 2016.0014; Naismith, BNJ 2019, pp.204-7. 少し歪みがあるがベリー・ファインよりも良い。

 

メルシアは、独立したアングロサクソンの王国として527年から879年までイングランド中部に存在していました。2016年1月に、イギリスの金属探知家であるアンディー・ホール(Andy Hall)は、826-7年にメルシア王国を統治した短命なルディカ王のユニークかつ歴史的に重要な銀貨を発見しました。専門家がコインの真正性を認めるまでに3年がかかりました。

 

表面には、ルディカの肖像が描かれています。カタログの執筆者によるとそれは「大胆で自然主義的なスタイル。…これがアングロサクソンの王政に長くローマが影響していることの印かと心惹かれるものです。」[13]と説明されています。裏側には、「City of London(ロンドンの街)」を意味する「LVNDONIA CIVIT」の文字が明確に記されています。

 

他に知られているルディカコインは10枚のみで、造幣所の印はありません。このコインは、ルディカがイーストアングル(East Angle)との戦いで殺されるまで、ウェセックス(Wessex)ではなくメルシアがロンドンを支配したことを示しています。

 

最近のイギリスのオークションでは、このコインは41,000ドル超えで落札されました。

 

イギリスは地球上でもかなり古い法体制を持つ国です[14]。イギリスで金属探知は人気があり尊敬される趣味とされ、イギリスの貨幣の歴史文書は新しい発見によって常に更新され続けています。

 

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注記

[1] de Callataÿ and Gitler (2004)

[2]https://www.researchgate.net/publication/286441834_Thorectes_marginatus_In_the_IUCN_Red_List_of_Threatened_Species

[3] https://conifersociety.org/conifers/abies-nebrodensis/

[4] https://en.wikipedia.org/wiki/Osmund_Bopearachchi

[5] Holt (2011) passim

[6] https://en.wikipedia.org/wiki/Beaurains_Treasure

[7] https://www.britishmuseum.org/collection/object/C_B-11477

[8] Not to be confused with an ancient Egyptian city of the same name.

[9] Numismatica Genevensis Auction 6, December 1, 2010, Lot 84. Realized CHF 1,000,000 (about $1,003,110 USD; estimate CHF 350,000).

[10] https://en.wikipedia.org/wiki/First_Servile_War

[11] Gorny & Mosch Auction 207, October 15, 2012, Lot 61. Realized €8,500 (about $10,995 USD; estimate €8,000).

[12] Nomos obolos 15, May 24, 2020, Lot 884. Realized CHF 2,200 (about $2,265 USD; estimate CHF 100).

[13] Dix Noonan Webb Auction 171, March 10, 2020, Lot 138. Realized £32,000 (about $41,381 USD; estimate £10,000 – 15,000).

[14] https://finds.org.uk/treasure

 

参考文献

Berk, Harlan J. 100 Greatest Ancient Coins. Pelham, AL (2019)

de Callataÿ, François. “The Brussels tetradrachm of Aitna: possibly the most precious ancient coin of the world”, All That Glitters: the Belgian Contribution to Greek Numismatics. Panagiotis P. Iossif (editor). Athens (2010)

de Callataÿ, François and Haim Gitler. The Coin of Coins: A World Premiere. Israel Museum: Jerusalem (2004)

Holt, Frank and Osmund Bopearachchi. The Alexander Medallion: Exploring the Origins of a Unique Artefact. Roqueyroux, France (2011)

Toynbee, Jocelyn. Roman Medallions. New York (1986)

 

本記事は、『COINWEEK』の翻訳記事です(掲載許可有り)。元記事は以下のリンクより確認できます。

参考:https://coinweek.com/ancient-coins/one-of-a-kind-some-unique-ancient-coins/

タグ: 古代コイン

アンティークコインタイムズ編集部

著者:アンティークコインタイムズ編集部

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