ジェフ・ギャレット:コイン収集と貴金属ブーム

金やその他の金属の価値が上昇し続ける中、レアコインを含む有形資産に対する関心が高まってきている

Numismatic Guaranty Corporation (NGC) にジェフ・ギャレットが執筆

 

貴金属、特に金は、毎日のようにニュースに取り上げられている。今週、金の取引価格は1オンスあたり2,000ドルの大台に迫り、これまでの最高値を更新した。その後価格は多少下落したが、ごくわずかだ。

 

銀も話題になっており、1オンスあたり約25ドルだ。

 

貴金属価格の急騰は、長い間コイン収集や貨幣学に関わってきた多くの人にとってはすでに馴染みのあることだろう。例えば1980年、銀価格は1オンス50ドル、金価格は約850ドルに上昇した。2011年にも金価格は1オンス1,900ドル以上、銀価格は約50ドルの値を付けた。

 

今日の金属ブームと、1980年と2011年に起こった価格急騰と下落はどう違うのかと思うかもしれない。ご存じだとは思うが、過去から学ぶことができない者は同じ間違いを繰り返す運命にある。今後より良い選択ができるように、以下で違いを見てみよう。

 

2011年、地金価格は銀行危機と世界的な金融システムの崩壊に伴い上昇した。金は世界中の投資家にとって究極のセーフティーネット(安全網)の役割を果たし、銀価格も投機的に急上昇した。だが、銀行・金融危機が回復するにつれ、それに応じ貴金属価格も下がった。

 

現在の金属ブームは、深刻な景気後退を未然に防ぐために世界中の政府が紙幣を増刷していることに対し、ハードアセットへの人気が急騰した結果である可能性が高い。本質的に存在しない現金を大量に作り出し配当するという対策は、将来深刻な結果を招くと多くの投資家は懸念している。今後数か月内に、金価格が1オンスあたり2,000ドルを超える可能性は高い。

 

レアコイン市場の巻き返し

金価格が新たに高値を付けたにもかかわらず、多くのレアコインの価格は変わっていないことに驚いている人は多い。これには多くの理由がある。

 

まず、1980年と異なり、レアコインの価格はほぼゼロの地点から始まっていないことが挙げられる。レアコイン市場は、40年前に比べ大幅に成熟している。

 

更に重要な第2の理由として、レアコイン市場の幅広い顧客層が挙げられる。少数のにわか成金ディーラーがコインに有り金をつぎ込んでいるだけではない。実際、レアコインディーラーの多くは今日の貴金属市場において脇役にすぎず、特に最近は傍観者のように感じている人も少なくない。

 

COVID-19がもたらした経済における先行き不透明感は懸念事項であるが、この逆風にもかかわらずレアコイン市場は生命の兆しを見せている。この傾向は近いうちに価格に反映し始めるかもしれない。現在、アメリカ人の多くは大半の時間を自宅で過ごし、自分の趣味をネットで再発見している。最近1か月で、4,000人近くの新メンバーがアメリカ貨幣協会(American Numismatic Association・ANA)加わった。

 

展示会があまり開催されていないこととオークションで提供されるコインの数が少ないことから、コインの供給はやや乏しい状態だ。

 

過去数年にわたりレアコイン市場は過剰供給気味だったが、その傾向は急停止したと言える。多くの大規模なマーケティング会社やネット上で活発に活動しているコイン会社は、新たなコインを求め奔走している。シルバーダラーの価格はここ数週間で急上昇した。

 

コイン収集の記事の見出しからも分かるように、ハイグレード品の市場は依然として堅調である。名の知れたコインは、売りに出されるたび価格の記録を更新し続けている。アメリカの富の格差は、コイン収集の世界でも明らかだ。ポピュレーションレポート(第三者鑑定機関により認証されたコインのレポート)を見てみると、上位のコインはオークションに出されるたびに記録を更新しているように思える。セット・レジストリ収集から生じる需要は、これまでになく高まってきている。今年後半に新たに開始される予定のANA/NGCセット・レジストリ・プログラムにより、さらに拍車がかかる可能性がある。

 

金が主流となった

1980年や2011年当時とは異なり、レアコインショップでは貴金属の購入者数が販売者をしのいでいる。アメリカとヨーロッパでは国民の財政的苦痛を避けるためにドルやユーロを増刷していることから、多くの人は保険として貴金属に注目している。現在のところ、金はそれ自体が通貨であるとみなされており、印刷された紙幣とは違い価値がゼロになることがないと思われている。

 

これが1980年のブームとの最も大きな違いだ。

 

1980年は、憶測と一攫千金を狙うことがすべてだった。今日の金の買い手は、すでに蓄積した富の安全性を求めているだけである。金はもはや、金投資家やサバイバル系の人だけが興味を寄せるものではない。金はすでに主流になった言っても過言ではない。1980年に起こった貴金属市場の暴落を繰り返すことはないと思われる。

 

貴金属価格の急騰にはいくつかのマイナス面がある。現在高額ポイントがごく一般的なゴールドコインにも割り当てられており、これがレアコインに悪影響を与える可能性がある。例えば、ほぼすべてのダブルイーグルは2,000ドル以上で取引されているため、バイヤーの数が減少した。他のシルバーとゴールドコインシリーズも影響を受けている。貴金属価格が、多くのポピュラーなコインシリーズの貨幣学上価値に近づく傾向は続くものと予想される。

 

以前との大きな違いのひとつとして、レアコイン認証が挙げられる。1980年当時、コインのグレーディングはあまり制限されていなかった。格付けは現在に比べまだ標準化されておらず、不正行為は日常茶飯事だった。レアコインの認証のおかげで、貨幣アイテムの購入はより安全なものとなった。

 

 

また現在は、実際の希少性を正確に把握するためのポピュレーションレポートも存在する。この素晴らしいツールの真価を過小評価している人は少なくない。1980年、一部のコレクターはGem 1881-S モーガンダラーは稀少品だと思っていた。40年後、NGCによりMS 65以上と格付けされたモーガンダラーは、40万枚以上にのぼる。誰が予測できただろう。同様に、実際には非常に稀少であることが判明されたコインもある。同じモーガンダラーでも、ここ40年間でGemグレードと格付けされたコインがほとんど存在していない年度もある。

 

注目の有形資産

現在の貴金属ブームがレアコイン市場に与える影響は、有形資産への関心が高まっていることにある。多くの投資家はウォール街の株価に懸念を抱いており、コロナクライシスの不安感を踏まえると株価は高すぎると考えている。ドルの下落を心配している人も多い。ペーパーアセットに対する一般大衆の不満は数えきれない。

 

レアコイン界のコレクター層は学識があり大規模であるが、良いコインの供給が限られていることから、レアコイン市場の基盤は依然として堅調である。他の経済分野と同様、コロナクライシスの影響によりコインの売買もネット取引がメジャーになった。アマゾン、アップル、フェイスブックなどの企業が増長する中、実店舗を構えるビジネスは苦しむ羽目になった。レアコイン市場でも同様の傾向が見られる。

 

本年度のANA世界マネーフェア(ANA World’s Fair of Money)は中止されることになったが、スタックス・バウアーズとヘリテージオークションズは来週オンライン版を実施する予定だ。これらのイベントは、それぞれラスベガスとダラスで行われる小規模な卸売イベントと合わせて開催される。次の1~2週間、数十万ドルに上るレアコインの数々がネット上で販売される。これは市場を見極める良い機会であり、コレクターやディーラーにとって、上昇する貴金属価格がコインの価格にどのように影響を与えるかを知る良いチャンスになるだろう。

 

 

本記事は、『COINWEEK』の翻訳記事です(掲載許可有り)。元記事は以下のリンクより確認できます。

参考:https://coinweek.com/bullion-report/jeff-garrett-numismatics-and-the-precious-metals-boom/