近世イギリスの通貨・コインの歴史を徹底解説!アンティークコイン投資は英国コインがおすすめ?

 

アンティークコイン市場には、あまたの国の古い貨幣が出回っています。そのなかでも、品格や芸術性において突出した存在感を誇るのがイギリスのコインです。大英帝国の栄華がそのままコインの品位に反映されているためか、コレクターたちのあいだでも絶大な人気を誇ります。

 

そのイギリスのコイン、近世の歴史と複雑に絡み合っています。今日は、近世におけるイギリスのコインについてご紹介いたします。

 

 

ハンマー打ちから鋳造への移行 近世のコインの誕生

さまざまなアンティークコインをご覧になれば一目瞭然ですが、コインはある時期から完璧な真円を呈しています。17世紀以前のコインは、いかにも無骨な作りでこれはこれで魅力的です。貨幣の流通に重きを置いていたイギリスでは、機械打ちのコインの普及が他国よりも早かったという経緯があります。そのあたりの事情をみてみましょう。

 

紀元前からコイン鋳造をになってきたハンマー打ちの技法

ハンマー打ちのコインとは、その名の通り金属をハンマーで打ち付けて製造する技術のことです。コインがこの世に出た紀元前の時代から17世紀まで、コインの鋳造といえばもっぱらこの製法が主流でした。

しかし、どんなにハンマー打ちの技術が進んでも真円にすることは困難で、ゆえに破損しやすいという欠点は克服できなかったのです。

 

エリザベス女王の時代に登場した機械打ち、ハンマー打ちのコインの終了は1662年

16世紀中ごろ、ドイツで水車を使用したプレス加工の技術が誕生します。これは歴史における大転換点であったものの、機械打ちのコインの普及にはかなり時間を要しました。

イギリスに機械打ちのコインが登場したのは1560年頃、エリザベス1世の時代であったとされています。しかし、その後はしばらくハンマー打ちと機械打ちのコインの製造が拮抗する時代が続きました。同時に、主役が銀貨から金貨へと移行していく時代とも重なりました。

ハンマーうちのコイン製造が完全に終了したのは1662年、チャールズ2世の時代でした。

 

スチュアート王朝の悲願が込められた「ユナイト金貨」

▲ユナイト金貨(イギリス)

ハンマー打ちと機械打ちの過渡期に生まれたのが、ユナイト金貨です。ユナイト金貨は、スチュアート王朝初代ジェームス1世の時代に作られました。「ユナイト」、すなわち「結合」を意味する命名は、イギリスと出身のスコットランドが融合することを望んだジェームス1世の発意であったと伝えられています。

ハンマー打ちの名残が残る美しいコインです。

 

月桂冠を被った王の姿が名前の由来「ローレル金貨」

▲ローレル金貨

ユナイト金貨と同じく、ジェームス1世の治世に鋳造された「ローレル金貨」。「ローレル」の名は、コインに刻まれたジェームス一世が頭上に冠している月桂冠にあります。ユナイト金貨鋳造後の後、1619年から1625年にかけて発行されたローレル金貨には、「FACIAM EOS IN GENTEM UNAM」という旧約聖書の文字がラテン語で刻まれています。「それらの国を1つにする」という意を持つこの格言、ジェームズ1世の「統合」への思いが読み取れます。

 

機械打ちコイン登場!「ギニー金貨」

▲ギニー金貨

イギリスにおける機械打ち硬貨の幕開けを告げたのが、1663年に発行された「ギニー金貨」です。その名の由来は、ギニー金貨鋳造当初に使用されていた金の産地アフリカのギニアにあるといわれています。ギニー金貨の鋳造は、1814年まで続きました。これ以後、イギリスのコインは機械打ちのもののみとなっていきます。



ニュートンが介入した貨幣制度のはざまで

▲サイエンスの世界にとどまらず貨幣の世界でも活躍したアイザック・ニュートン

当時、イギリスのみならず欧州で問題になっていたのが、貨幣鋳造にかかわる人たちの「盗削」でした。つまり、コインの端を削ってその金属をわがものにしてしまうという盗難行為が横行していたのです。貨幣の価値の低下につながるこの事象に対応したのが、万有引力説を唱えた学者アイザック・ニュートンであったのです。

 

貨幣の劣化を防ぐためにニュートンが行った大改鋳

科学者として知られるアイザック・ニュートンが、イギリスの造幣局長に就任したのは1717年のこと。しかし、それ以前から彼は造幣局で重職を担っていました。

17世紀後半、イギリスが誇る天才ニュートンが考案した「コインの削り取り」対抗策は、機械打ちしたコインのふちにギザギザを入れることでした。イギリスの王立造幣局では、このギザギザを入れるための加工機を開発し、貨幣の価値低下を食い止めることに成功したのです。

 

銀から金の時代へ

18世紀初頭のイギリスは、飛躍的に経済が発展していた時代です。そのため、通貨の安定はなににもまして優先された懸案でした。その対策として1816年に制定されたのが「金本位制」です。

腐食しにくくどのようなものとも交換可能であった金から作った金貨を、さまざまな物品の価値を定めるための基準としたのが「金本位制」でした。これによって、イギリスと安定した経済関係を維持する必要があった諸国が、金本位制を導入することになったのです。

 

長期の在位を誇ったジョージ3世のコイン「スペードギニー」

▲スペードギニー

ハノーヴァー王朝の3代目ジョージ3世は、身内の不始末に悩まされながらも60年に及ぶ在位で知られています。

そのため、ジョージ3世の在位中には数回にわたって意匠の異なるコインが鋳造されました。通称「スペードギニー」は、1787年に発行されています。裏側の縦の形状がスペードに似ていることから、こう呼ばれるようになりました。

 

フランス革命の真っただ中で誕生した「サードギニー」

▲サードギニー

フランス革命という欧州の動乱のさなかに登場したのが、「サードギニー」です。混乱期の中、イングランド銀行の財政状況も不安定であった時代でした。こうして登場したのが、少額金貨のサードギニーであったのです。サードギニーの鋳造は、ジョージ3世の治世下に限られています。

 

金本位制施行の申し子「ソブリン金貨」

▲ソブリン金貨

1489年に登場した「ソブリン金貨」は、裏面に玉座が描かれていたことから「王」を表す「ソブリン」の名称がついたといわれています。金本位制の移行後、本格的に新しい貨幣として英国に定着しました。

 

一時期その鋳造が途絶えていたソブリン金貨が復活したのは、1817年のことでした。そして、現在まで鋳造が続いている由緒正しきコインです。代々の英国王の肖像が刻まれており、007映画『ロシアより愛をこめて』にも登場します。英国らしさあふれる品格が特徴です。

 

世界を変えた産業革命から女王の時代へ

▲1851年にロンドンで開催された万博の様子。イギリスの経済的成長を背景に開催。

英国を世界の最強国に押し上げた理由のひとつが、18世紀後半に起こった産業革命でした。この未曽有の経済的発展を支えたのが、イギリスの安定した貨幣制度であったといわれているのです。

 

18世紀後半に起こった産業革命

「モノづくり」というカテゴリーにおいて、まさに革命的な役割を果たしたのが産業革命でした。1つ1つを手作りするという時代から、実用的な商品を大量に生産できる時代へと大きく転換したのです。

まさに、世界の経済をひっくり返し、イギリスを世界の最強国へとのし上げた産業革命は、金貨に代表される安定した貨幣制度が一助となったことはまちがいありません。

 

1987年から鋳造されている「ブリタニアコイン」

▲ブリタニアコイン

ブリタニアコインは、1987年から鋳造されています。銀貨も、1997年に発行されて話題になりました。「ブリタニア」と名がついているだけあって、擬人化されたイギリスが裏面に刻まれているのが常です。その美しさは、コインの分野では定評のあるイギリスの真骨頂といったところでしょうか。

 

国民に敬愛されるエリザベス女王が刻まれたコイン

▲エリザベス2世のアンティークコイン

1953年の戴冠以来、イギリスにおいて最長の在位を誇るエリザベス2世。

エリザベス2世の人生の節目には、これまでにも何度かコインが発行されています。若き時代の初々しい肖像画から、円熟し国民の敬愛を受ける近年のエリザベス2世像まで、コインの変遷をたどれば女王の人生が垣間見えてきます。

イギリスでは、教養ある人たちのあいだでこうしたコインを贈ることが流行っているのだとか。

 

最後に

他国よりも貨幣の流通が早かったといわれるイギリスは、コインの鋳造の歴史も紆余曲折を経てきました。

代々の国王のみならず、ニュートンをはじめとする才能ある人々や産業革命などの歴史的事象にによって、イギリスの貨幣と経済は成長を続けてきたのです。世界で最も美しいといわれるイギリスのコインには、そうした人々の思いや情熱が込められているのかもしれませんね。