1839年、世界一美しいとされる金貨「ウナとライオン」が発行されたときのイギリスは?

2020/6/26|著者: アンティークコインタイムズ編集部

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皆さんは、世界一美しいと言われるイギリス金貨「ウナとライオン」をご存知でしょうか?この金貨は18歳で王位を継承したヴィクトリア女王の即位記念として、即位2年後の1839年に400枚のみ発行された特別な金貨です。

ヴィクトリア女王の即位と大英帝国の発展を大いに期待していることが窺える貴重なコインと言えます。それでは、この金貨「ウナとライオン」が発行されたときのイギリスはどのような社会だったのでしょう?

この記事では、当時の社会情勢や市民の生活について詳しく紹介します!

 

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「ウナとライオン」が発行されたときのイギリス社会とは?

金貨が発行された19世紀半ばはイギリスにとって世界的に国家的な栄華を極めた時期と言えます。

ヴィクトリア女王という新しい女王の即位、イギリス初の万国博覧会、工業の急速な発展など世界中が注目する輝かしい出来事がたくさん起こりました。

ただ、国が発展していくとともに貧富の差が拡大した時期でもあります。当時のイギリスの光と影、それぞれ詳しく見ていきましょう。

大英帝国の象徴 ヴィクトリア女王の即位

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1837年に18歳の若さで女王に即位したヴィクトリア女王。その記念に発行されたのが金貨「ウナとライオン」です。この金貨にはラテン語で「我が君主が進むべき道を示すであろう」という言葉が描かれ、裏には『妖精の女王』という作品をモチーフに女王が国家を導いていく様を表現しています。ヴィクトリア女王とイギリス国家繁栄の期待が込められていることが分かりますね。

しかしながら、即位当時は女王の施政に関して期待していない声もありました。そんな声にも負けず、彼女は金貨に込められた期待を受けるかのように強い個性と意思を持って自分の義務に取り組み、イギリスを「大英帝国」と呼ばせるほどに発展させます。その証拠として、19世紀半ばのイギリスは政治や軍事力、経済、工業などあらゆる分野で最盛期を迎えたのです。

この時期をイギリスの平和という意味の「パクス·ブリタニカ」と呼び、ヴィクトリア女王はこの時代を象徴する存在となりました。

大英帝国の名を知らしめた! ロンドン万国博覧会と工業の発展

ヴィクトリア女王が即位してまもなく、大英帝国たるイギリスの名を知らしめる出来事がありました。1851年に開かれた「ロンドン万国博覧会」です。博覧会自体は1798年にパリにおいて「内国博覧会」が開かれていましたが、世界的に開催したのはイギリスが初めてになります。

ヴィクトリア女王の夫であるアルバート公が万博の指揮をとりました。アルバート公はイギリス国内だけでなく世界の製品を目にすることにより、人々が健全な貿易と外交をすることを願っていたのです。

ロンドン万国博覧会は、イギリスの産業革命による産業力と技術力を駆使して作られた「水晶宮(クリスタル·パレス)」という巨大な建物で開催されました。そこには34カ国から集まった約10万点の展示品が並び、その半分はイギリスとその植民地からの品物でした。水晶宮と展示品だけで、イギリスは「世界の工場」としての機能を世界に見せつけたのです。

万博の初日は大勢の来場者であふれ、その後も入場料を値下げしたことで労働者階級から中流階級まで多くの人々が訪れました。来場者たちは紅茶やソフトドリンクを楽しみながら展示品を眺めて過ごしたと言います。万博は18万ポンドの利益を得て、19世紀当時の世界の人々に衝撃的な文化的また工業的革新をもたらしました。

発展には付きもの? 拡大した貧富の差と戦争

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さて、ここからは経済や工業の発展とともに起きた貧富の差や当時勃発した戦争といった当時イギリスの「影」について紹介します。

19世紀半ばのイギリスは工業や経済が著しく発展しましたが、それによってもたらされた富は貧しい労働者階級の人々には行き渡りませんでした。貧しい人々の生活は変わらずに裕福な人がより裕福な生活となってしまったのです。

その結果、イギリスの貧富の差は拡大しました。職を求めた労働者たちがロンドンなどの都市に押し寄せ、19世紀半ばのロンドンの人口は180万人にも膨れ上がります。産業が発達するとともに低賃金の長時間労働が増え、スラム街が増えていき街の住環境は悪化していきました。

さらに、19世紀のイギリスは複数の戦争に参加しました。イギリスの外交を率いていたパーマストンが軍艦による政治的な外交を行い、イギリスの植民地を増やしていったのです。その結果、19世紀半ばまでにニュージーランドやオーストラリア、カナダが植民地となりました。そして、セポイ(傭兵)の乱がありつつもインドまで支配下に置きます。後に、ヴィクトリア女王はインド帝国皇帝を称するようになりました。

他にも1840年からはアヘン戦争、1853年からは看護婦のナイチンゲールが活躍したクリミア戦争に参戦します。この当時、戦争は自国の領土を拡大する方法であり、イギリスは次々と植民地を得ていきました。しかしながら、戦争では罪なき人々の命が奪われます。そして、後に着々と技術力をあげていたアメリカに追い越されたことを考えれば、この当時の戦争は「影」として考えられるものでしょう。

このように、金貨「ウナとライオン」が発行された当時のイギリスは、世界を牽引するような力を持つ国であると同時に発展による弊害も持ち合わせていました。19世紀半ばのイギリス社会は経済や技術力が上向く一方で、その急速な変化に人々が追いついていなかったのです。

金貨「ウナとライオン」は良くも悪くも「変化」が起きた時代に生まれたコインと言えるでしょう。それでは、次にそんな時代に生きた国民の生活を詳しく見ていきましょう!

 

「ウナとライオン」が発行されたときのイギリス国民の生活

金貨「ウナとライオン」が発行された当時のイギリスは経済的にも技術的にも大きな進歩を遂げていました。それまでになかった便利な製品が次々と登場し、19世紀を治めたヴィクトリア女王をお手本にした新しい生活スタイルも生まれます。

ここでは、当時のイギリス国民の生活とともにイギリスの階級制度についてみていきましょう。

生活の質を分けた階級制度

イギリスにおける階級制度は国民の生活の基盤になっています。貴族には貴族の生活スタイルがあり、労働者には労働者の生活スタイルがあります。まずは、イギリスの階級制度について簡単に解説します。

イギリスの階級制度にはピラミッド型になっており、トップにヴィクトリア女王をはじめとする王族が存在します。それから貴族と爵位のない地主であるジェントリという上流階級、医者などの専門職や実業家などの中流階級、そして労働者階級という順番です。

上流階級の生活

上流階級である貴族たちは郊外にカントリーハウスという豪華な邸宅を持ち、数多くの使用人を抱えて暮らしていました。社交界に出る際には数多くのマナーがあり、当時のイギリス貴族にとって社交界デビューは一大イベントだったと言えます。

社交界以外では、男性は自然の中で狩りや釣りに興じたり女子禁制のクラブに通っていました。女性は女性でお茶会をしたり慈善事業に勤しんだのです。当時のイラストがありますが、美しい上等なドレスを着た貴婦人と痩せてぼろぼろの服を着た貧困者の絵は生活の違いを如実に表しています。

そして当時の貴族の服装ですが、男性はスーツとフロックコートにトップハットをかぶった服装が主流であり、女性はファッション雑誌などを参考にした流行のドレス(スカート部分が膨らんだものが多かった)を着て主にシニョンと呼ばれる髪型をしていました。特に女性たちは使用人に手伝ってもらいながら、1日に3回も着替えていたと言います。

このように、働く必要のない暮らしをしていた上流階級の人々ですが、それだからこその義務もありました。それが、慈善活動と「ノブレス·オブリージュ」です。ノブレス·オブリージュは無給で公務に就くことであり、19世紀当時は志願兵として戦争に従軍することを示しました。贅沢な暮らしをしつつも、貴族は貴族でしきたりに縛られ義務感のある生活を送っていたことが分かります。

中流階級の生活

中流階級の人々の暮らしも製品の質こそ上流階級より劣りますが、服装などはさほど変わりません。ただし、中流階級の人々はカントリーハウスなどの豪邸ではなく賃貸の一軒家に住むことが多かったです。

中流階級であっても使用人を雇っている場合がほとんどであり、女性たちは女主人として使用人たちをまとめる立場になりました。そのほかにも上流階級の人々と同じく、慈善活動に参加することや人前でも恥ずかしくない教養を持つことが美徳とされていたようです。

上流·中流階級の人々はディナーやお茶会など人を招くことが多かったため、その際に女主人はお客様へのおもてなしとして様々なことが求められたと言います。こうして見てみると、中流階級の人々の生活もそれほど楽なものではないことが分かりますね。

労働者階級の生活

しかし、やはり肉体的な辛さでいえば労働者階級の人々の暮らしが一番酷いと言えます。彼らは二階建ての住居が連続するフラットに住むことが多く、より貧しい人々はスラム街で暮らしていました。日々の暮らしのために低賃金ながらも必死で働き、劣悪な環境で生活していたのです。服装自体も上流·中流階級の人々と比べて質素でした。

男性は質素で簡易な服にボーラーハットという山高帽をかぶり、女性たちも質素なドレスを着ていることが当時のイラストで分かります。19世紀当時は現在と違い、低賃金の長時間労働は当たり前でした。それに加えて児童労働も盛んで、危険な作業をまだ幼い子供たちが行っていたのです。

人口の割合から見て労働者階級の人々の方が多いのにも関わらず、そんな彼らほど貧しい生活をしていたことはまさにこの当時の「影」の部分と言わざるを得ません。

19世紀の食卓事情

19世紀ヴィクトリア朝時代の食事は、植民地から新しい食材がもたらされました。そのため、上流·中流階級では狩りで採ったもの以外にも南国のフルーツなど珍しい食材も食されたのです。

また、イギリスの食習慣では朝食、昼食、ティー、夕食が一般的ですが、特に朝食が重要視されていました。ヴィクトリア女王が遅くに夕食を摂ることが多かったため、それに倣った貴族たちがその分朝にしっかり食べるようになったことが中流階級や労働者階級にも広まったのです。当時の主なメニューは、上流階級ではオムレツやハム、ヤマウズラのローストなどです。

しかし、労働者階級などでは茹でるなどの単純な調理法しかできなかったため、「砂糖を多めに入れた紅茶が朝食」なんてこともあったのです。普段はパンやポリッジ(オートミールのお粥)を食べ、ほんのたまにチーズやベーコンなどを食したと言います。

イギリスでは「朝食は美味しい」と言われますが、その起源は19世紀にありました。ただ、上記のように階級によって食べるものの質はかなり異なっていることが分かります。

 

便利な道具や新しい施設が次々と登場!

19世紀イギリスでは産業が著しい発展を遂げて、様々な製品が開発されイギリス国民の生活に溶け込んでいきました。その中のいくつかを紹介します。

まず、国民の便利な道具として真っ先に挙げられるものが「ガス灯」。19世紀以前からガス灯は存在しましたが、19世紀半ばにガス産業は著しく発展しました。街灯だけでなく酒場や商店などにも使用され、徐々に一般家庭にも普及していったのです。

ただし、一般家庭においてガス灯が使用されたのは玄関などのみで寝室ではそれまで通り蝋燭やランプを用いていました。他にも、郵便制度によってもたらされた「切手」や遠距離通信の手段として「電信」などが開発され、人々の生活をより便利なものにしました。

また新しい施設として、ロンドン動物園内に設置された世界初の「水族館」やロンドン万国博覧会の収益などをもとにして作られた「ヴィクトリア&アルバート·ミュージアム」があります。また、ヴィクトリア女王即位以前にあったロンドン動物園もヴィクトリア女王即位後の1847年に入場料を半額にしたり、人気動物であるカバが仲間入りしたことで一気に有名になりました。

このような新しい道具や施設によって、人々の生活はそれまでより便利になり、娯楽と呼べるものが増えていったのです。

 

ヴィクトリア女王をお手本に! 

当時、ヴィクトリア女王をはじめとしたロイヤルファミリーはイギリス国民の憧れでした。女王は即位後の1840年にアルバート公と結婚。夫のアルバート公は女王の良き助言者となり、9人の子宝にも恵まれました。

ヴィクトリア女王は夫であるアルバート公を非常に愛しており、いかなる時も誠実かつ献身的という模範的な妻として尽くしたと言います。そのため、19世紀ではヴィクトリア女王をお手本として家庭を大切にし、家族の楽しみを得るという精神が根付いていきました。食事においても、朝食は家族そろっていただく習慣が生まれたのです。

さらに、女王夫婦の家庭行事も国民に広まりました。代表的なものとして挙げられるのが「クリスマス」です。ドイツ出身であるアルバート公がドイツの習慣である「クリスマスツリー」を持ち込んだことから始まりました。

1860年代には上流階級から労働者階級まで全てのイギリス人にクリスマスツリーの習慣が普及したのです。また、印刷技術の発達からクリスマスカードも普及し、女王夫妻のやり取りからクリスマスプレゼントも広まりました。こうして「クリスマス」の習慣はヴィクトリア朝時代にイギリスの人々の生活に浸透していったのです。

こうして見てみてるとヴィクトリア女王がイギリス国家に与えた影響は計り知れませんね。

 

世界一美しい金貨「ウナとライオン」発行時のイギリスを知ろう!

世界一美しい金貨「ウナとライオン」が発行された当時のイギリスは、良い意味でも悪い意味でも「変化」の時代でした。イギリスの社会面においても、人々の生活においても様々な「変化」が起こったのです。

金貨「ウナとライオン」を見ることで、その当時のイギリスを垣間見ることができます。輝かしいコインの背景にあるイギリスの歴史について、この記事で少しでも知っていただけたら嬉しいです。

 

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タグ: イギリスの歴史

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