【人類最古のコイン】紀元前650年リディア王国 1/3ステーター「Walwet」NGC XF★ Surface5/5 Strike5/5をご紹介

人類最古のコインと言われるリディア王国の金貨の歴史と素材、そしてリディア金貨の中でも特別な「1/3ステーター "Walwet" NGC XF★ Surface5/5 Strike5/5」コインについてご紹介します。

 

 

リディア金貨とは

世界で最初のコインと言われており、硬貨の歴史でも非常に重要な位置づけにあるリディア金貨の歴史と、リディア金貨の造幣に使用されたエラクトラム素材について見ていきます。

 

 1. リディア金貨の歴史

リディア金貨は、紀元前7世紀から紀元前547年まで続いたリディア王国で人類が最初に作った貨幣だと言われています。リディアは現在で言うトルコ西部に位置しており、このコインの誕生から人間の貨幣経済が始まったと言っても過言ではありません。

 

リディア王国の造幣はサデュアッテス王(Sadyattes)とその息子アリュアッテス王(Alyattes)の時代から始まりました。リディア金貨の中でも最も古いコインは、紀元前630年から620年のサデュアッテス王の統治時代まで遡ります。

 

紀元前619年から560年に統治したアリュアッテス王によって品質が保証されたリディア金貨(エレクトロン貨幣)が発行されたと言われています。その後クロイソス王が質と重量を統一して貨幣を流通させることに成功しました。リディア金貨は公式なコインとして認められた最初のコインであるといえます。交換価値を示す認定マークがあり、政府が通貨として初めて発行したコインだからです。

 

それらのコインはほんの短期間の間に少数の金型により発行されたもので、その後発行されたコインよりも非常にレアなものです。このコインが完全保存されて造幣当時の光沢が残っていることは稀で、ほとんど全てのコインは「ベリー・ファイン(very fine)」以下のグレードです。

 

重さは1/3ステーター(古代ギリシャの重さの単位で、1ステーターは14~17gに相当する)ですが、この時期に発行された別の金貨が発見されたことは今までないことから、おそらくこの通貨における最大の単位だとされています。リディア金貨の価値については様々な意見がありますが、一般的に1つの金貨が約1ヶ月の給料にあたり、もっと価値が高かったとすれば11頭の羊を購入できるほどだったと言われています。

 

 2. コインが世界に普及した背景

歴史学の祖となったヘロドトスは、著書『歴史』の中でリディア人のことを「我々の知る限りでは、金銀の貨幣を鋳造して使用した最初の人々であり、また最初の小売り商人でもあった。」と述べています。

 

リディア王国が発明した貨幣(コイン)というアイデアは、その後ギリシャ、ローマに広まり、そしてペルシアや西北インドなどの西アジア政界にも広がりました。リディア王国を滅ぼしたアケメネス朝ペルシアがリディア王国の貨幣制度に倣って作ったダレイコス金貨や、その後ペルシャを撃退したアテナイのドラクマ銀貨が有名です。

 

3. リディア金貨の素材:エレクトラム

エレクトラム(electrum)は琥珀金という意味で、ギリシャ語で琥珀を意味する「エレクトロン(elektron)」に由来します。エレクトラムを組成する金銀合金の淡黄色が琥珀を連想させることから、その名前で呼ばれるようになりました。

 

リディア王国は豊富な天然資源を持っており、特に現在のトルコに位置するパクトロス川(Pactolus River)は砂金(自然合金)を豊富に産出するためエレクトラムの豊富な供給源となっていました。当時の王は、エレクトラムからコインを生産することでかなりの財産を集めました。当時合金を作るような技術が無かったため、天然で産出されていたエレクトラムから金貨を作ったと言われています。

 

パクトロス川は、「触ったものすべてを金に変えてしまう呪い」を洗い流そうと川で水浴びをしたミダース王(King Midas)の神話で有名で、エレクトラムが大量に産出されるのはその伝説に由来するとも考えられていました。

 

リディア王国の首都サルディスはメソポタミアとギリシャの間に位置し、東西交易路のハブとしての役割を果たしていたため、エレクトラムの採掘と加工で硬貨を生み出したことで取引が円滑になり、リディア王国の繁栄に繋がったと言われています。

 

リディア金貨の通貨史上の正式名称は「エレクトロン貨」とされており、リディア金貨でなくエレクトロン貨と呼ぶのは古代ギリシア人がそう呼んで大切にしていたことに由来するそうです。

 

リディア王国・1/3ステーター"Walwet" NGC XF★ Surface5/5 Strike5/5金貨の特徴

次に、リディア金貨の中でもスペシャルな「1/3ステーター"Walwet" NGC XF★ Surface5/5 Strike5/5」のコインを紹介します。

 

1.左向きのライオン

古代でも今日でも、ライオンは王の象徴とされており、領土を支配する王室の権威、強さ、そして防衛を象徴しています。コインには、歯を剥き出しにして鋭い三角形の目で威嚇しているような古風なスタイルのライオンが魅惑的に描かれています。

 

ライオンは太陽を直接見ることができると信じられており、太陽の化身だと考えられていました。リディア金貨にはライオンの頭の上に輝く太陽が描かれたものも残っています。

 

今回紹介しているリディア金貨には、左向きのライオンが描かれているのがスペシャルな点です。ライオンが左向きのコインは当時の王族のために作られたコインだと言われており、非常に貴重なコインです。

 

2.グレード:NGC XF★ Surface5/5 Strike5/5

当コインのグレードはXFのスターです。星付き(エクストラ・ファイン)の中でも特に美しいもので、ストライク(Strike)とサーフェス(Surface)の段階評価が5/5ずつ付いてる満点のコインです。当時のコインとしては奇跡的な状態で残っているコインです。

 

古代コインはストライク(Strike:打刻の状態)とサーフェス(Surface:表面の状態)の各5段階で評価されます。

 

3.裏側のインキューズ

裏側には2つの四角が刻まれており、これをインキューズといいます。表面のデザインを浮かせるために、最初に裏側から銀製の土台で打つことで表を盛り上げて、その後に彫刻を施した説が有力です。偽造防止目的の極印とも言われており、当時の貴重な技術を垣間見ることができます。

 

4.   Walwetの刻印

ライオンの頭の先にWalwetと刻印されており、リディア王国の王様の名前を表しています。「ウォルウェット」と読んでいますが、これはリディアのアルファベットで書かれているそうで、ギリシャ語に翻訳するとリディア王である「アリュアッテス」という名前になります。

 

アリュアッテス王の統治時代(紀元前610年−560年)の初期に史上初めての貨幣が登場したという説があり、そのためアリュアッテス王は貨幣の発明者だとされています。

 

アリュアッテス王の息子であるクロイソス王は、貨幣の質と量を統一することで最初の公認通貨体型と貨幣制度を発明し、莫大な富を持ったことで有名で、クロイソスの名は「富める者」と同義語になりました。現在でも欧米地域では「rich as Croesus(クロイソスのように大金持ち)」「richer than Croesus(クロイソスよりも大金持ち)」というような慣用句で使われています。

 

まとめ

リディア金貨のような約2600年前のコインを個人で入手できるというのがコイン収集の醍醐味で、楽しいと感じられるところです。普通であれば博物館にあってもおかしくないようなものですが、それが個人で買えると言うのがコインコレクションの面白さと言えます。紀元前600年のものがこのような形で残っていて、かつそれが個人で買えるレベルの値段であるというのが奇跡的でロマンを感じます。

 

リディア金貨は人類最古の貨幣で、これ以前は石だったり貝殻だったりと貨幣ではありませんでしたが、初めて人類が作った貨幣としてこのような形になったという記念すべきコインです。特にリディアのウォルウェットで左向きのライオンというのは大変レアなものですので、今回ご紹介させていただきました。

 

本記事は、以下のアンティークコインギャラリアのYouTube動画をもとに作成しています。

動画:https://www.youtube.com/watch?v=a-JQKveZwig