古代コイン・プロフィール - アレキサンダー大王の肖像

2020/8/18|著者: アンティークコインタイムズ編集部

By ラッセル A・オーグスティン, AU Capital Management, LLC 

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▲マケドニア, フィリッポス2世, フィリッポス3世治世下造幣; コロフォン, 紀元前322頃, スターテル

 

マスメディアがなかった時代、簡単に持ち運べ広く流通できることから、古代のコインはプロパガンダの強力な道具としての役割を果たした。歴代の支配者は、大衆、味方、敵に特定のメッセージを伝えるために、コインの型やデザインの各要素を慎重に選んだ。

このコンセプトを理解していたアレキサンダー大王(アレクサンドロス3世)は、肖像の特定の詳細だけでなく、コインそのものを注意深く構想した。アレキサンダーが神話上の英雄であるヘラクレスとして表象されているテトラドラクマ(4ドラクマ)銀貨は、その最も有名な例と言える。自分自身が英雄になることを熱望していたアレキサンダー。ギリシャ神話のヘラクレスが象徴する力強さ、決断力、意志の強さは、世界支配を成し遂げようとしたアレキサンダー自身の資質とも重なる。

アレキサンダー大王が32歳の若さで死去した後、広大な帝国の将来がいかなるものになるかは混沌としていた。アレキサンダーは後継者を明示することなく死去したため、武将たちの間で後継の座を巡る争いが勃発する羽目になった。

死の床で、アレキサンダーは印綬の指輪を騎兵隊の指揮者であったペルディッカスに渡した。暗黙の後継者指名と思われるが、ペルディッカスが直ちに最高権力者の座に就くことはなかった。アレキサンダーが死去した当時、バクトリアの王妃ロクサネは彼の子を宿していたが、性別は不明である。

ペルディッカスは、まだ生まれていない赤ん坊の性別が確認できるまで誰を後継者とするか決断するのは待つべきであると主張した。もし男子であれば、この赤ん坊こそ正当な王位継承者である。だが歩兵隊は、赤ん坊の性別がいずれであれ、アレキサンダーの異母兄のアリダイオスが帝国を支配すべきだと提唱した。

派閥はついに妥協し、紀元前323年8月のアレキサンダー4世の誕生を機に、赤子のアレキサンダー4世とフィリッポス3世(アリダイオス)が共同統治者として皇位に就いた。だが、彼らは名前上のみの皇帝であり、事実上の支配者はペルディッカスであった。

このコインはアレキサンダーが死を迎えた一年後に製造されたものだ。表面のデザインは肖像で、裏面には奔走する軍馬を走らせる戦車御者の姿が描かれている。このデザインは、フィリッポス2世が始めたタイプのコインを引き継いたものである。とは言え、スタイル自体はこの時代の他のスターテル金貨とは著しく異なっている。

このデザインのコインは、一つしか存在していなかった表面の極印を、コロフォンとマグネシアの2ヶ所の造幣所で交代に使用して製造された。デザインが複雑で、他の彫刻師が簡単には複製できない、非常に重要なものであったことを示している。

大半のマケドニアのスターテルコインには太陽神アポロンが描かれているが、このコインにはアレキサンダー大王自身の肖像が使用されている。これは現存するアレキサンダーの肖像の最も初期のもののひとつであり、並外れた才能のアーティストによって彫刻されている。造形的で、格調高く堂々たる構図で描写された肖像は、他の作品に描かれたアレキサンダー大王像と共通の特徴を捉えている。

アレキサンダー大王の肖像をコインの表面に使用した理由は、混乱状態の新しい政権を正当化しようとしたことにあると思われている。名の知れた指導者の肖像を使用することによって、新政権は彼の祝福を受けているのだと示したかったのだろう。また、光をもたらすアポロン神をアレキサンダー大王の肖像に置き換えることによって、アレキサンダーはヘレニズム社会の光と知恵を世界に広げた存在であると、このコインは告げている。

このコインはその美しさと歴史的重要性のため、フィリッポス治世下に製造されたスターテル金貨の中で最も魅力的で興味深いもののひとつであると言われている。

コインの製造や多方面に渡る交渉に努力を費やしたにもかかわらず、新政権は波乱に満ちたものだった。紀元前321年にペルディッカスは暗殺され、強力な将軍間の40年に渡る戦争の結果、アレキサンダーの帝国はプトレマイオス王国、セレウコス朝、ペルガモン王国、マケドニア王国に分裂した。

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コイン詳細:

マケドニア王国、フィリッポス2世(フィリッポス3世治世下造幣)、コロフォン、紀元前322年頃、スターテル金貨、8.65g、Le Rider 図版 90、16。表面:月桂冠のアポロン神(右向き)、顔の特徴はアレキサンダー大王のもの。裏面:付き棒を持ち、なびく髪の御者に引かれる二頭立てビガ戦車(右向き);馬の前脚の下方に三脚;図案の下にφιλιππουの銘(フィリッポスの意味)。これは非常に特別なコインで、肖像はアレキサンダー自身のものであると思われている。コインは高浮き彫りで、肖像は造形的である。最高級の品質。素晴らしいミントコンディション。

 

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本記事は、『COINWEEK』の翻訳記事です(掲載許可有り)。元記事は以下のリンクより確認できます。

参考:https://coinweek.com/ancient-coins/ancient-coin-profiles-portrait-of-alexander-the-great/

タグ: 古代コイン

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